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アメリカンに映画を観る!--- 洋画見聞録

主にアメリカ映画・文化について書きます。たまに関係なさそうな話題も。

"How to Blow Up a Pipeline" エコ・スリラーの新境地

 How to Blow Up a Pipelineという映画を先日見た。日本では劇場未公開で、配信予定も未定の映画なのだが、大変面白かった。本作では、気候変動による未曾有の危機にも関わらず石油業界は利益を優先して何もしない中、テキサス州にある石油輸送パイプラインを爆破すべく若者たちが集結し計画を実行に移す様が描かれる。

 

 特筆すべきは、この映画がいわゆる環境問題を巡る犯罪もの(「エコ・スリラー」)として新たな境地を切り開いたところだ。例えば2013年の『ザ・イースト』(The East) は、環境テロリスト集団に潜入した女性捜査官が主人公で、言ってしまえば「内ゲバ」的な展開を見せたし、同年の『ナイト・スリーパーズ』(Night Moves)も、ずさんな計画により集団が内から崩壊していく様を描いており、事の顛末が往年の強盗映画に似ている。つまり、主人公たちの理由はどうであれ報いは受けなければならないし、組織の団結もずっとは続かない。さらに、観客に環境テロリスト集団の行動原理にある程度納得させるために時間を割かざるを得ないところがある。

 しかし、本作ではとにかく計画実行の過程を見せることがまず第一にあって、それが進行する間に突如フラッシュバックが挿入され、メンバーの一人ひとりの経緯が明かされる形式を導入している。そのため、観客は既にサスペンスの真っただ中に投じられていて、一人ひとりの行動原理をたとえ十分に理解できていなくとも、映画自体には没入できている。これには近年、環境問題に対する共通認識がとりわけアメリカの若年層の間で大きくシフトしていることもあり、既に主人公たちが置かれている状況の深刻さは伝わってくるという理由もあるのかもしれない。さらにこのフラッシュバック、最後の方では単に人物の説明だけでなく、どんでん返しとして機能し始めるところもなかなか上手いと思った。計画実行でのトラブルの描き方、それぞれの登場人物の関係性、さらにこの怒れる若者たちに対して懲罰的な描き方を安易にはしないという判断が大変印象的だった。