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アメリカンに映画を観る!--- 洋画見聞録

主にアメリカ映画・文化について書きます。たまに関係なさそうな話題も。

The Assistant (2019) 闇の通過儀礼:かくしてワインスタインの「共犯者」が生まれる

 
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 とある映画会社の新入り秘書の1日を描いたキティ・グリーン監督による傑作スリラー。もちろん背景にあるのはハーヴェイ・ワインスタインの性的暴行及び#MeToo運動であり、その一連の報道を把握していることが大前提となっている。 
 とにかく恐ろしい映画である。主人公は女性の秘書ジェーンで、彼女の目線から、職場で起こっていることを観客は察していくことになる。たしかに職場の他の女性たちはある程度登場し、彼女たちと会話する機会もなくはないのだが、彼女が置かれているのは、女性たちの紐帯を形成しようがない環境である。テレビ局FOXニュースの内情暴露を描いた『スキャンダル』(Bombshell)の職場もその点類似しているが、あの映画は最終的に女性たちが反撃するまでの過程を描いたものなので実際のところ本作とは対照的だろう。誰も「本当のこと」を話そうとはしない。それは皆が言わずともわかりきったことだからでもあるし、立場の弱い個人が声を上げたところで何にもならないことを知っているからだ。
 ここで、ジェーンが働き始めてまだ3か月ほどしか経っていない、という設定がなかなか巧いと思った。なぜなら、彼女は、新入りに電話番をスムーズに教えられるほど、日々の業務をこなせている一方で、この闇にまみれた職場における暗黙の了解をまだ受け入れるまでには至っていないからだ。彼女は一流大学を卒業しており、3人いる秘書の一人としては明らかに仕事内容が彼女の能力と合っていない。
 彼女の業務内容としては、例えば浮気を疑う上司の妻に電話越しで対処したり、上司のアポを管理したり、女性たちの顔写真をひたすらプリントアウトしたりするのだが、それは上司による過去の悪行の「火消し」と同時並行で、近い将来に彼が行うであろう悪行のための「お膳立て」をしなければならないことを意味する。すなわち、当初ハリウッドでの活躍を期待していたがやがて彼の餌食となってしまう女性たちを主人公は毎日淡々と用意していくしかないのだ。かくして上司の明らかな職権乱用、人権侵害、あるいは犯罪行為に沈黙し、かくして大勢の「共犯者」の一人となっていくのだ。そんな闇を本作は巧みに「見せない」あるいは「話さない」ことで描いていく。そんな職場を本作は徹底的に描いており、映画内の1日が1か月にも1年にも感じられるほどの苦行の連続なのだが、本編は90分を切っており、決して無駄のない、タイトな作りの映画になっている。必見の一作だ。
 

The Assistant (2019)

本編中、上司が自身のオフィスに座っているところを我々観客が確認することはない。ただ空席を見つめ、不在であるはずの彼の存在感におののくほかないのだ。
 
 The Assistant (2019)は日本未公開。