後にシット・コム『ルーシー・ショー』の主演として、TVスターとなったルシール・ボールが出演している20世紀フォックスのフィルム・ノワールである。私立探偵ブラッドが、自分を密かに狙っている存在をボールが演じる秘書キャサリンの助けを借りながら、追及していく犯罪ドラマである。
一般的にフィルム・ノワールとは、戦後アメリカの光を描くスタジオ映画とは裏腹にアメリカの闇に迫る作品と言えるだろう。基本的にイメージされるのは、ハードボイルドな男たちと、彼らを魅了するファム・ファタールたちである。しかし、現在ノワールと呼ばれる作品の中には当初メロドラマとして分類されていたものもあり、ハードボイルド一貫とも言い切れないところがある。端的に言えば、ノワールは、ダークな女性映画の宝庫でもあると言える。本作もその類に属する映画なのかもしれない。
本作でルシール・ボールの大活躍ぶりを期待して見ると若干肩透かしを食らうかもしれないが、それでも有名なノワールではなかなかお目にかかれない「秘書と行う真相解明」は一見の価値がある。一匹狼の私立探偵では思いつかない点から、(クリーニング!数日前の朝刊の内容!)謎の突破口を見出していく。
そして、ボールが優れた喜劇俳優としてその名を全米にとどろかす前に、彼女がドラマもコメディも演じられることが十分に伝わってくるような、ユーモアとシリアスさが融合した演技を本作で見ることができる。