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アメリカンに映画を観る!--- 洋画見聞録

主にアメリカ映画・文化について書きます。たまに関係なさそうな話題も。

『バーバリアン』(2022, アメリカ) 民泊ホラーという新境地(ネタバレなし)


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 10月はハロウィン月間ということで、特に英語圏では新旧問わずホラー映画が話題に上りがちな印象がある。自身もそれを受けて自宅で鑑賞したのはほぼ米国産ホラーだった。その中でも印象に残ったのが、『バーバリアン』である。まずディズニープラスで鑑賞可能になっていたことに驚き、急いで本編を見たのだが、本作の驚きは当然そのような配信環境の驚きを大きく上回るものだった。

 本編は大雨の中、主人公テス・マーシャルが民泊先の前に車を止めるシーンから始まる。メールの文面を確認し、鍵の入ったセーフ・ボックスの暗証番号を復唱しながら彼女が車から出る。しかし、その4桁の番号は初めから覚え間違いで、一度目はボックスは開かない。メールを再確認し、ようやく開いた中にカギはない。この時点で既に不穏な展開なのだが、それに加え、既に宿泊先の中には先客がいた。どうやら違うサービスを使って部屋を予約しており、ダブル・ブッキングになっていたらしい。その先客の名前はキースだという。知らない人間の家に上がるのは危ないと分かっていつつも、向こうがぜひ中に入ってくれとしつこいのでテスは中に入る。

 キースは要らぬこと(テスの名前を聞いて『可愛い名前だね』)を時折口にしつつも、二人は話を続ける内に意気投合する。ラブコメだとここで二人は一夜をともにする展開になるかもしれないが、キースは当初の案通り、リビングで寝て、テスは寝室で眠りに着く。しかし、真夜中にドアが開き、しかもソファで寝ているキースは不可解な寝言を言っている。この映画、幽霊屋敷ものなのか・・・?キースはナイスガイのようだが、そのまま彼を信用していいのか?彼を演じるのは『IT』のペニーワイズを演じたビル・スカルスガルドだぞ?

 そう思っていると、物語は予想不可能な展開を見せる。レーガノミクスが遺したもの、北部に移植された南部ゴシックホラー、#MeToo後の業界など、社会批評的な文脈、そして深層の下にまだある別の深層/真相という、ストーリーテリングの斬新さが複合的に絡みあい、「民泊ホラーという新境地」を確立したのではないか。前者の社会批評的な視座の全てがうまく機能しているとは言いがたいが、これだけ様々な要素を盛り込んで手に汗握る作品として成立させているのは評価に値すると思う。