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アメリカンに映画を観る!--- 洋画見聞録

主にアメリカ映画・文化について書きます。たまに関係なさそうな話題も。

『私だけが知らない』【時間移動と愛 その2】

 

ykondo57.hatenablog.com

 

 時間移動と愛というテーマと言えば、『君だけが知らない』も良かった。

事故の影響で記憶喪失になり、幻覚で未来が見えるようになった女性が事件に巻き込まれていく姿を描くサスペンス。主人公のスジンを「サイコだけど大丈夫」のソ・イェジ、スジンの夫であるジフンを『死体が消えた夜』のキム・ガンウが演じる。メガホンをとったのは、『四月の雪』などのホ・ジノ監督のもとで助監督や脚本を担当し、これが長編デビューとなるソ・ユミン。(Movie Walker Pressより)

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 是非鑑賞済みの方は当ページの「完全ネタバレ解析原稿」を読んでもらいたい。ほとんど自分の言いたいことはここに網羅されている。うっかりクリックして読んでしまわないように、パスワードの入力まで用意されている。
 以下から衝撃の展開以降の部分に触れる。

 今回「タイムトラベル」や「タイムトリップ」と言わずにあえて「時間移動」という表現を使っているのは、主人公の「予知能力」が超自然的な現象ではなく、彼女のフラッシュバックであったからだ。

 この「予知能力」は大変スパンの短いものだ。突然出会う少女の運命を予知した後に、それ通りのことがすぐさま起こる。この近未来→現在の構図が、実は過去から、少しだけ時間の経過した過去という過去①→過去②であると明らかになるとき、彼女のトラウマとの向き合い方、そして「夫」の行動の本質も明らかになる。

 『ザ・ファイブ・デビルズ』と同様に、サスペンスやスリラーの文法に沿って物語が展開していく本作は、最終的に夫ではなく兄であったジフンの愛にもフォーカスしていく。彼女が最悪の形で記憶を取り戻さないように、夫役を演じ続け、カナダへの移住を早急に進め、最後には自らの身をもって彼女を火事から守りぬく。カナダに無事たどり着いたスジンには、自分の横にいるジフンの姿を想像する。

 主人公の正気が夫によって疑われる、といういかにも『ガス燈』的な展開から一転、このような着地を用意していたこの映画は、驚きに満ちた一作だった。