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アメリカンに映画を観る!--- 洋画見聞録

主にアメリカ映画・文化について書きます。たまに関係なさそうな話題も。

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』アシスタントたちの上げた声

 言わずと知れた『大統領の陰謀』(1976年) や、スピルバーグの秀作『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(2018年)など、記者の奮闘を描いた映画は数あれど、今回の場合は『スポットライト 世紀のスクープ』(2015年)が近いのかもしれない。『SHE SAID』がフォーカスするのは性暴力とそれを隠蔽しようとするシステム、そして声を上げたくても出来なかった人々だからだ。

 


 

  基本的に劇中で起こることは、ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーによる原作本と同じで、政治サスペンスとして過度に映画を盛り上げるようなことはされていないものの、ところどころ映画的な演出を効果的にしているところがあった。

 例えば、冒頭で登場するのは主人公の記者2人ではなく、1992年のアイルランドにいる若い一人の女性ローラである。やがて彼女はハーヴェイ・ワインスタインの製作による歴史ものの映画に携わっており、撮影現場で仕事にやりがいを感じていることが伺える。その後ワインスタインにより被害を受け涙を流しながら走っている彼女の姿のシーンに変わる。この冒頭だけで、夢を作り上げる映画制作の場が、女性たちにとって悪夢が繰り返し生み出される場に変貌しうることが示唆されており、映画の持つ魔法に制作側の人間が幻滅する様が描かれている。

 また、記事を執筆した記者二人の生活にも光が当てられる。原作ではミーガン・トゥーイーの育児休暇について触れられることはほとんどなかったが、トゥーイー(演じたのはキャリー・マリガン)が第一子を出産するまでも、トランプのセクハラについて書いた記事について脅迫を受ける様や、産後辛い思いをしている様が描かれている。そこに既にワインスタイン問題について取材を始めたジョディ・キャンター(ゾーイ・カザン)が、既に子供がいる母として産後の悩みに電話越しに真摯に耳を傾け助言することで、二人がのちに強力な記者タッグになることが自然な形で描かれている。

 本作で何度も言及されるNDA、つまり秘密保持契約 (Non-Disclosure Agreement)という法の制約により、金の口封じを受けた被害者の女性たちについては記事が書けないという困難が主人公2人には立ちはだかる。しかし、示談金を受け取ることがなかったローラと、同じく被害を受けた別の2人のアシスタントの女性たちロウィーナとゼルダが取材に応じ始めることで、記事を書く突破口が見えてくる。そのアシスタント3人と記者2人が徐々に協力的な関係を築いていくところが本作の見ごたえの一つだと言える。

 

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