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アメリカンに映画を観る!--- 洋画見聞録

主にアメリカ映画・文化について書きます。たまに関係なさそうな話題も。

『ザ・ファイブ・デビルズ』【時間移動と愛 その1】

〈あらすじ〉

 フレンチアルプスの麓にある小さな村、ファイブ・デビルズ。8歳の少女ヴィッキー(サリー・ドラメ)は、母ジョアンヌ(アデル・エグザルコプロス)と父ジミー(ムスタファ・ムベング)との三人暮らし。ずば抜けた嗅覚を持つ彼女は、大好きな人や物の香りを再現し、小瓶に入れてコレクションしていた。

 ある日、ジミーの妹ジュリア(スワラ・エマティ)が突然家を訪れる。彼女の香りを調合したヴィッキーは、それを嗅いだ瞬間にジュリアの記憶の中にタイムリープしてしまう。その後もタイムリープを繰り返すヴィッキーは、彼女と母親、そして自分自身にまつわる禁断の秘密を知ることになる。(文春オンラインより)

 

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 上の写真はオープニング・ショットのスチール写真である。宣伝を見る限りこの映画は「悪魔」に関する何かが主に描かれることを期待させるが、恐らくそのイメージは裏切られることになるだろう。超自然的な現象は主人公の匂いによるタイムトリップであるが、その能力がなぜ彼女に備わっているのか、特にその理由は明示されない。そこにロジックを求めるような映画ではないと言える。

 匂いによるタイムトリップのシーンは、第三者目線のフラッシュバックに主人公のヴィッキーが傍観者として居る、という要素を加えた描き方がされている。この語りを選んだ理由は何なのか、鑑賞中何度か不思議に思ったが、そこには必然性がはっきりとあった。ヴィッキーがそこにいて、彼女の姿を見られるのが記憶の主であるジュリアである、という点が重要であった。正直なところ、タイムトリップを繰り返すことで生じたことはある程度予想できた。しかしながら、この物語はタイムトリップそのものによって何かを修復したり、問題を解決に導くような物語ではない。荒くまとめるとすれば、互いの愛を再確認した者同士が前に進むまでの過程を描く物語である、と言えるだろう。

 本編はSFスリラーとして、緊張に満ちた冷ややかな雰囲気を作り出している。例えば、この村は、山間部に位置しており、ヴィッキーの通う学校とその周りの光景は大変美しい。しかし、そこでは極めて陰湿ないじめが行われており、残酷な一面を持っている。同様に、ヴィッキーが見守る中母ジョアンヌが寒中水泳を行う湖も壮観だが、油断すれば低温症で命を落としかねない危険な場所でもある。このように本作における特定の場には二面性があるのだが、この二面性という構図は、若干意味が変わるものの、本作全体にも適応できる。

 つまり、本作はサスペンスに満ちた演出を徹底していながら、最終的には熱い愛についての物語であることを確かに観客に告げる。『ザ・ファイブ・デビルズ』とは、SFスリラーという枠組みの制約から抜け出したラブ・ロマンスであり、もっと言えば、その愛の復活を自分の身で経験する少女の成長譚でもあるのだ。

 このような、スリラー調の作品において時間移動と愛とが同時に描かれる例として今年もう一つ挙げられるのが、『君だけが知らない』である。

 

【時間移動と愛 その2】につづく

 

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