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アメリカンに映画を観る!--- 洋画見聞録

主にアメリカ映画・文化について書きます。たまに関係なさそうな話題も。

プーチンが観た『博士の異常な愛情』

 オリバー・ストーン監督と言えば、『プラトーン』(1986年)を筆頭に社会派映画を次々と作り出す名監督で、筆者も好きな映画は何本もある。ただ、最近彼がプーチン大統領に取材した映像がドキュメンタリーになったことに対して、懸念の声が聞かれるようになった。端的に言えば、現在のアメリカに対して批判的な態度(それはもちろんオバマのときもそうだった)を変えないストーンがとうとう親ロシアのプロパガンダ映像を作ってしまった、というものだ。

 当初そういった反応を見て、「余計にこれは見てみないと」と思い実際全編観てみたが、そんな単純な話なのだろうかとも思えた。というのも、一応オリバー・ストーンプーチンに厳しい質問を投げかけるものの、それに答えるプーチン本人が手強手ごわすぎた、というのがこちらの印象だったからだ。彼は毅然としてロシア側の答えを返す。時にはうまく論点をずらしながら、こちらのペースに引き込んでいく。最終的にはプーチンが西洋諸国に対して主張したいことが凝縮された映像が撮れてしまった訳だ。編集したのはストーン本人であるにもかかわらず、こんなドキュメンタリー作品が出来てしまったこと自体にプーチンの恐ろしさを垣間見ることが出来る。

 そんなドキュメンタリーの中でも、一番びっくりしたのが、ストーンが冷戦の話をしているときに、スタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情』をプーチンが観たことがないと知り、本人にその映画を見せる場面だ。

 米ソ両側を戯画的に描き、最終的には両国の愚かさゆえに世界が滅亡してしまうというどぎついブラック・コメディを監督とプーチンは一緒に観る。

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 観る側としては妙なサスペンスを感じてしまったのだが、プーチンは鑑賞後、

「我々に考えさせる部分がこの映画にはあった」「今の状況とほとんど変わっていない、ただ現代の兵器のシステムはもっと複雑になっている」(大意)と言った感想を残していた。

 これだけ聞くと凡庸な映画評論だと思ってしまうが上のような言葉を発しているのが理論上「作り話」を「現実」に変えてしまう力を持っている男だと考えると、その一語一句の重みを感じざるを得ない。

 しかも最後、ストーン監督は観たDVDをそのまま大統領に渡している。最後まで恐ろしい。