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アメリカンに映画を観る!--- 洋画見聞録

主にアメリカ映画・文化について書きます。たまに関係なさそうな話題も。

『非常宣言』娯楽大作として確かな出来のパニック映画

 新年早々ものすごいパニック映画を見ることができた。
 本作でソン・ガンホイ・ビョンホンが地上と空中で死闘するのは、飛行機という逃げ場のない閉鎖空間で起こるバイオテロだ。機内にばらまかれたウイルスは、空気感染するもので、感染後速やかに死をもたらしうるものである。舞台となる飛行機は、旧式であるため、機内の空気が循環し続ける構造になっているという設定だ。
 バイオテロの犯人が誰なのかは冒頭から明らかである。この映画は、犯人捜しのミステリー要素よりも、観客は犯人が分かっているが乗客のほとんどは分かっていないという差から生じるサスペンスに重きを置いている。そして、犯人はそもそも生き延びるつもりがないため、本人を特定したところで解決策は全く見つからない。やがてパイロットも感染して飛行不能になる。機内はパニック状態で、一部の乗客の傲慢さも露わになる。畳みかける展開で飽きさせない。
 とりわけ印象的だったのは、アメリカ、日本、韓国それぞれの国の「冷酷さ」を、ある種の合理性も盛り込みつつ描いていたところ。テロ対象になった飛行機はホノルル行きの便であったが、アメリカから着陸許可が下りず、止むなく引き返す。次に、深刻な燃料不足が問題となる中、成田空港に緊急着陸を試みるが、またしても許可は下りない。それどころか、何としてもこの未知のウイルスが蔓延する民間機を阻止すべく、航空自衛隊の戦闘機が出動する。威嚇射撃もするし、その後は航空機と正面衝突寸前のところまで行く。この敵の描き方は、昨年の大ヒット作『トップガン マーヴェリック』を思わせるような(あるいは『スターウォーズ』の帝国軍パイロット)、「顔なき」敵パイロットの描き方で、リアリティには欠けるが息をのむような箇所であった。そして、韓国も着陸させてくれない、という三度目の拒絶に見舞われる。しかも全空港の滑走路がデモ隊により占拠される。やがてその問題も解消されるのだが、どの国も当初は受け入れてくれないという主人公たちの苦難がそれぞれの国の事情を織り交ぜて描かれるところは大変印象的だった。
 そして、本作は公務員個人に対する倫理観もすごく強い映画である。チョン・ドヨン演じる国土交通省大臣と、ソン・ガンホ演じる刑事は、公務員は「市民のために尽くす存在」だという確かな信念を持っている。しかし、だからと言ってその総体としての政府がそのような正義ある行動に応えてくれる訳ではない、という示唆は観客に重く響く。