西川美和監督作品は、『永い言い訳』をアマゾンプライムで見て、「おお、何かすごい映画見たな・・・」と思ったのが初めてで、『蛇イチゴ』や『ゆれる』は後から見て圧倒されました。新作『すばらしき世界』が劇場で初めて鑑賞した同監督作品でした。
『蛇イチゴ』のようなブラック・ユーモアも、『ゆれる』のようなミステリー要素も排した「直球」の犯罪人間ドラマだったと思います。もちろんラストシーンの青空に映し出されるタイトルの多層的な意味はご覧になった方々ならとてもよく伝わってきたかと思いますが、それ以外だと、例えば東京の映し方は結構印象に残りました。
主人公がいわゆる「昭和のヤクザ」であることを考えると、東京を代表する建造物として繰り返し登場するのは東京タワーでした。「まだ東京タワーばかり見せるの?」と思っていたところ、ちゃんと終盤では、主人公が時代の移り変わりを受け入れ始めたことを反映しているのか、スカイツリーが映っていました。
あと、メディアの扱い方として、テレビ番組として主人公の人生を(本編の表現を借りるならば)「食い物」にすることが最適解でないことを示した上で、作家志望のTVディレクターが最終的には彼の物語を小説にすることがある種の救いであることを示唆しているように思いました。その対比を考えると、やはり監督は自分自身が小説家であることもあってか、小説の力に少し重きを置いているような気がしました。では映画はどうかと言うと、実話をベースにした原作小説の設定を変えた上で、フィクションである本作を作り上げていることを考えると、やはりテレビよりは、小説と映画は近いものなのかなとまでは思いました。
なお、長澤まさみの役は物語上重要な役であるもののあまり出てこず