『ブリッジ・オブ・スパイ』が公開中だからなのか、気づいたらスピルバーグの出世作『激突!』を借りていたので、観てみた。
ストーリーは至ってシンプルで、先を急ぐセールスマンが追い抜いたトレーラーに執拗に追いかけられ、命まで狙われるというものだ。
ガレージの暗闇の中からバックで車道に出るシーンから、主人公デイビッド・マンの、夕日に映える横顔のシーンまで90分足らずである。
既に指摘されていることではあるが、David Mannは、まさしく平均的男性、ないし人間の象徴であって、それが運転席がよく見えないトレーラーに追いかけまわさせる話なのだから、この映画における重要な構図は人間 対 機械 (man vs machine)だろう。
カメラは終始デイビットの言動にフォーカスしていて、車の独立した意志は強調されない一方で、トレーラーの運転手の顔は全編を通じて一度も出てこない。スピルバーグ本人も、トレーラーの車種は、車が人間の顔に似ているかどうかで決めたらしく、ここに「自動車に乗る人間」と「人間を乗り回す自動車」という二項対立が明示されている。
そして、その構図はクライマックスで顕著だろう。デイビッドは、自らの名前が刻んであるスーツケースをアクセルの上に置き、ギリギリのタイミングで車内から飛び出す。トレーラーと彼の乗用車が正面衝突する様は、まさしく人間対機械の一騎打ち、原題のduel,決闘なのである。
なお、この決闘とはまさしく西部劇におけるそれである。ラストの勝負の場は、何も周りにないような乾ききった山で、互いの銃を引き抜いて早打ちするように、猛スピードで両者は”激突!”する。
崖へと真っ逆さまに落ちていくトレーラーだが、その中には運転手の姿が見当たらない。となると、まさしく彼はトレーラーの一部、トレーラーの亡霊だったのだろう。そして、『フランケンシュタイン』よろしく、車というモンスターを作り上げた人間がどうにか、そのモンスターを退治したということになるのだ。