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アメリカンに映画を観る!--- 洋画見聞録

主にアメリカ映画・文化について書きます。たまに関係なさそうな話題も。

キングスマン解説~幾層にも重なる教会シーンでの黒い笑い

『キックアス』『X-Menファーストジェネレーション』監督マシューヴォーンが手掛けた『キングスマン』は相変わらずのブラックユーモアまみれの、それでいて正攻法の傑作スパイ・アクション映画だと思う。

 今回は、あの教会シーンでかかっていたあの曲の意味を主に考えていこうと思う。

 あの殺陣(たて、ではなく本当にさつじんと読んだ方が適切に思えてしまうほどのシーンだったが・・・)の後ろでかかっていたのがこの曲である。

 

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 洋楽ファンの方はご存知かと思うが、この曲は70年代のロックシーンにおける名曲だとされている。

 リナード・スキナードという、サザン・ロックと言われるアメリカ南部発祥の音楽で有名なバンドによるこの曲は、それゆえに南部のごりごりの教会のシーンでこの曲を流すというのはとんだブラックユーモアなのは町山智弘氏もラジオで解説している。

 ただ、この曲の背景を考えてみると、その黒い笑いはそんなところでは終わらないのだ。

 全くこの曲が知らない方が一聴してみると、驚くかもしれないが、この前半は至って感動的なバラードなのである。

 もし僕がここを離れても、僕のことをずっと覚えていてくれるだろうか

 なぜって、今もう旅立たないといけないから 

 行かなければいけないところが多すぎるんだ

 でも、君と一緒にいても

 もうそれは同じことにはならないんだよ

 なぜなら、僕は今鳥のように自由なんだ

 そしてこの鳥を変えることは出来ない

 僕は元には戻れない

 どうも恋人を置いて、どこかへ旅立ってしまう曲に思える。間違ってはいないのだが、この曲は、オールマンブラザーズバンドの二人に捧げられている。

 オールマンブラザーズバンドとは、リナード・スキナードの先輩格のバンドで、サザン・ロックの雄だ。そしてこのバンドの名物ギタリストのデュアン・オールマンは、スライドギターの名手として知られていた。しかし、その黄金期において、突然の交通事故で当バンドのベーシストとともに命を落とす。 

 そんな不運に見舞われたバンドへ敬意を表して、この曲で出てくるのは言わずもがな、スライドギターである。そして、その亡くなった二人は自由になった鳥であると、ライブのMCでリードボーカルが言ったことがあるそうだ。

 そしてこの前半部分は実はあのシーンの早い段階で教会のオルガンから鳴っていた。そこにあの強烈なギターソロの応酬が入ってきてとんでもないことになる。前半部分に胸を熱くさせ、後半部分に燃える名曲がこんな使われ方をしていたのである。

 実はこの曲にまつわる話はまだあって、奇しくも、リナードスキナードの主なメンバーも旅客機事故で数人亡くなっており、オールマンブラザーズバンドと同じような運命を辿ってしまったのだ。

 そう考えると、南部的なものを徹底的に潰していったあの映画のあのシーンのあの曲の意味はかなり重層的なものになってくる。あの黒い笑いもかなり複雑だったのだ。