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バードマン ネタバレ徹底解説 後編

(結末部分に関わっています)

 

 

 

 この映画は、レイモンド・カーヴァーの引用から始まり、カーヴァーの短編の上演が物語の中核となっている。結論から言えば、作中でリーガン本人が言うように、これは彼の人生のダイジェスト版のようなものである。

 『愛について語るときに我々の語ること』の原作は、4人がテーブルを囲んで、”愛とは何だ?”ということについて非常に過激なケースを持ち出してだらだらと話しているだけのものだ。登場人物は、2組の夫婦で、リーガンはその中でもメル(医者の方)及び、エド(Terriの元カレ)を演じている。ただ、原作ではこの映画のような回想シーンはない。わざわざ過去のシーンをクライマックスにまでして再現しているのは、リーガン自体がエドのような存在だったからだ。

 

 舞台裏で、リーガンは自分の元妻と話す。

 「何で、俺たちは別れたんだ?」「あなたが私にナイフを投げつけたからよ。そしたら、1時間後には、愛してるよの応酬よ(・・・)あなたは愛(love)を賞賛・あこがれ(admiration)と混同してるのよ」

 と、DV夫であるところや、愛がなんたるかが分かっていないところまでリーガンはエドと酷似している。後に分かるように、自殺を一度試みたこともエドと同じだ(この辺が結末部分に関わってくる)。

 

 

 そんな自伝的な演劇をリーガンは何としても成功させなければいけない。これは、自分のキャリアに変化をもたらすという意味でも、自分の実存的危機(どう生きたらいいか彼は分からない)という意味でも最重要なチャレンジだ。だが、問題は山積みだ。リーガンが共演者に妊娠させてしまったやら、エドワード・ノートン扮するマイクも自我の強い男で手が焼けるやらで、リーガンは不安で仕方がない。

 本番前日、リーガンはバーを後にし、ウィスキーを買うシーンがあるが、その際にずっと酔っ払いが何か叫んでいる。これは、シェイクスピアの4大悲劇の一つ、『マクベス』からの引用である。

        明日 また明日 そして明日と
   時は一日一日歩みを進め
   やがて最後の瞬間がやってくる
   過ぎ去った日々は愚かな人間に
   死への道を照らすのだ さあ 明かりを消せ!
   人生など影絵に過ぎぬ
   役者どもは舞台の上で動き回るが
   やがて消え去ってしまう
   阿呆のたわごとと同じだ
   響きと怒りに満ちてはいるが
   何も意味もありはしない

マクベス(Macbeth):シェイクスピアの四大悲劇

 これは、妻にそそのかされて、自らが王になるべく先王ダンカンを殺したマクベスの独白だ。殺人を犯した罪悪感に彼は劇中苛まれ続け、もはや自分の人生に絶望し、意義を見出せなくなっていたのだ。これもリーガンの心情を反映しているとする見方がある。自らの生を営む当事者を”役者”と称している部分も、『愛を語る~』を演じることがまさにリーガンの人生そのものとなっている部分と共鳴する。人生は「阿呆のたわごと」でしかない。

 

 では、彼はどうするのか?彼は本物の銃で自らの人生に終止符を打とうとする。ただ、それは頭ではなく、鼻を撃ちぬく。ここで再び隕石のようなものが落下するシーンが流れる。これをイカルスと見ることも出来よう(実際そういう意見も散見された)。劇中にも、バードマンはイカルスであるとロラン・バルトが言った、と取材者が話す場面がある。ロラン・バルトはフランスの哲学者で、例えば何気ない広告の中にも、象徴的な意味を体系的に見出す手法でもって、独特の批評を展開していった。

 要は、バードマン=リーガンは、カムバックを試みようとして、あまりにも高く飛びすぎた。太陽に近づきすぎて、自らの羽が焼け落ちて死んでいったイカルスのように、リーガンは一度死ぬ。ただ、それは象徴的な意味であって、彼は演劇界のスーパースターとして返り咲いた。妻と娘とも心でつながるようになった。

 包帯を貼った彼の顔はもはやバードマンの顔そっくりになった。鼻も大きくなって、素顔も鳥になった。そして、彼は空を見る。もう、彼はバードマンの幻影に惑わされることはない。彼はバードマンと一体化したのだ。虚構を超越したリーガン=バードマンは本当に空を飛ぶ。不死鳥のごとく、彼は新たな生を手にしたのだ。

 ここで、冒頭の引用が生きてくる。レイモンド・カーヴァーの詩である。

 

それでも、お前は自分の人生で求めるものを手にしたのか?

 手にした。

 何を求めていたのか?

 自分が愛されていると言えること、自分がこの地球で愛されていると感じること。

Quote by Raymond Carver: “Late Fragment And did you get what you wanted ...”