羊たちの沈黙は、見る者を釘付けにするような良作のサスペンス映画だと思う。
今回は、表層的な話とは別にフェミニズム的な観点(要は女性目線)から映画を分析したい。
(参考:現代アメリカ映画入門)
FBIアカデミーの優秀な訓練生クラリスは連続誘拐殺人事件の捜査スタッフに組み込まれ、犯罪者として収監されているレクター博士と面会する。それは、天才的な精神科医でありながら、自らの患者を次々と死に追いやったレクターこそ事件の謎を解く鍵になると見込んでのことだった。レクターはクラリスに興味を示し、捜査の手がかりを与える。ふたりが次第に心を通わせていく一方、新たな誘拐事件が。そしてレクターは脱獄を図り……。ジョナサン・デミ監督の代表作となった衝撃のサイコ・サスペンス。 (映画,comより)
言わずもがな主人公は、戦う女性。
冒頭でも懸命に一人で訓練をこなすクラリス。たくましい女性像が描かれている。しかし、「美人の見習い」という先入観はほとんど払拭されない。
例えば、精神病棟の理事にも、自分の話をロクに聞いてもらえずさっそくナンパされる・・・クラリスは単に真面目に自分の任務をこなそうとしているだけなのだが・・・
それに、実験台として扱われている病棟内の囚人に、I can smell your ****!とか言われて、酷くおびえるクラリス。安全な場所だと思える教会内でも、地方の男の警察官ばかりがいる部屋に一人置き去りにされ、ある一定のまなざしでもって見られる。互いに緊張感のある瞬間で、クラリスは冷静を必死にして保とうとする。それに、FBIも男の世界だ。
性的支配の恐れに常に見舞われながらクラリスは捜査を続けるほかない。
彼女の恐れはそれだけにとどまらない。クラリスは南部なまりを必死に伏せて、自らの出自がばれぬように振舞っていたが、過去のトラウマの匂いをレクター博士は感じ取った。羊たちの叫びが、何年経っても頭の中で鳴り響く、あのトラウマである。
しかも、その全てが分かってしまうレクター博士は、クラリスのことを気に入る。最後博士とクラリスとの指が少しだけだが触れ合うシーンがあるが、クローズアップで撮られている。ただ、歪曲した彼の愛情には、当然クラリスも反発せざるをえない。
このように、彼女は、父権社会という外部から今現在抑圧されているとともに、過去の抑圧にも悩まされているのである。
では、彼女は最終的にそういった二重苦から脱することが出来たのか?
彼女は、名誉ある功績とともに、FBIの養成学校を卒業する。少し、恩師も怪しいところがあったが、ここは、プロフェッショナルらしく握手で済ます。
全てが無事に終結したかと思うと、逃亡中のレクター博士から電話が来る、『羊たちは叫ぶのをやめたかね?』と。その返答はクラリスはしない。この映画のタイトルは『羊たちの沈黙』だが、本当に沈黙したのか?
サスペンス映画の「サスペンス」という言葉には、「宙ぶらりんの状態」という意味がある。この映画について考えれば考えるほど、観客は宙ぶらりんの状態に陥る。安直なご都合主義で終わらせないのがむしろ怖い映画だ。
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