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アメリカンに映画を観る!--- 洋画見聞録

主にアメリカ映画・文化について書きます。たまに関係なさそうな話題も。

タイタニック論 徹底解剖!(後編)

  1. 「壁」は崩されなかったのか?

            この章では、先述した壁はこの映画全体で「全く」崩れることはなかったのだろうか、という点に焦点を絞りたい。まずは、Roseの心境の変化の過程を振り返る。自明なのは、彼女が婚約者を愛していなかったことだろう。Jackに、”do you love him?”と聞かれて、即座に返答出来ず、後付けしたかのように、それを肯定したそのわざとらしさからも明白だ。婚約者側もそれを分かっていた。彼とのキスをRoseは拒み、彼女はJackへの思いを否定するどころか、彼に吐露する。彼は性的にも精神的にもフラストレーションが蓄積していったのだろう。証拠に最終的に彼の拳銃=フラストレーションが火を噴く。

            本当の愛が欠如していたRoseと婚約者とは対照的に、Jackとは結ばれることになる。彼女は、自分のありのままの姿をJackには、絵を描いてもらう際に見せた。その一点だけにおいても、Jackへの思いは明らかだが、タイタニック号沈没の夜、二人は、車内で結ばれることとなる。二人が、いわば合体(unite)を果たしたことは、まさしく対立構造をとっていた男⇔女が瓦解していくことを意味するのではないか。

   だが、以下のような反論予想も可能であろう。生前のJackとRoseの関係から言えば、一理ある考えかもしれないが、第一章で扱ったように、結局女性しか生き残らないことを無視してもいいのか。しかしながら、ローズの「現在」に着目すると結論は依然として変わらないと考える。この映画の構造は、1997年という映画公開時の「現在」から見て、既に起こってしまった出来事であるタイタニック号沈没の際のドラマが、生存者の口から語られる、というものである。フラッシュバックでもって、映画の中核部分を示す手法は何も真新しいことではないが、そもそも何故わざわざ老いたRoseに語らせる必要があったのか、という疑問は残る。現在と過去を行き来するという構造で、観客の興味を持続させ、物語に深みを持たせるという試みと取ることは出来よう。ただ、現在でのドラマはかなり薄い。宝探しに自分の人生を賭けた船長もRoseの話を聞いて、あっさりと考えを変えるような存在であった。加えて、100歳近い女性を語り部にするのは、プロット上での力技のようにも思える。既に死去したタイタニック号からの生存者の日記を現在の人間が読むような手法もあり得たのではないか、と思ってしまう。

  しかし、その一見強引かつ蛇足的な設定こそが重要であると考える。ローズはあの時点でまるまる一世紀分を生きた女性であるが、それこそがJackとの合体に至ったことの裏づけではあるまいか。換言すれば、メタファー的にも、ローズはJackの生を自らの体に吸収し、引継いだ。RoseとJackはいわば「一つ」になった。彼女が様々なことにチャレンジするようになったのもこの影響であろうと言えるし、彼なしにRoseはそこまで生きられたどうかも分からないと考えられる。

  それと関連して、エンディングの解釈について言及したい。Roseが眠っている様子がカメラは写しており、次のシーンではRose、Jack、そしてタイタニック号に乗っていた、歓喜に満ちた人々が集まっており、二人はキスして映画は終わる。これを彼女の夢と解釈するか、死後の世界の様子と解釈するかで意見が分かれるようだが、監督は見る側の判断に解釈を委ねている。これを後者とするならば、これまでの議論とロジックが噛み合うことになる。回想場面の終盤で、寒さに体力を大幅に奪われ、生きる希望を捨てようとしていた、RoseにJackはこう言う、”You're going to get out of this... you're going to go on and you're going to make babies and watch them grow and you're going to die an old lady,warm in your bed. Not here. Not this night. Do you understand me?”。ラストシーンでのRoseはまさしくこのセリフと合致しないだろうか。彼女は、Jackのラストネームを引継ぎ、結婚し、子供をもうけた(ひ孫までいる)。そして、暖かいベッドの中でその壮絶な一生を終えた。このように解釈すれば、沈没事故前のRoseはいわば死に、Jackという存在を内包するRoseが事故後に新たに生まれた。そして、彼女はジャックが望んだ人生を歩み、自らのストーリーを伝えた。Heart of the Oceanを海に還したRoseは自分の目的を果たしたと考え、自らの人生を終えることとなった。そう考えると、二項対立が破られたかと思って、断絶がまたあったのではなく、破られていた壁もあったといえよう。いわばジンテーゼとして新生Roseは人生を全うしたのではないか。その意味で、この物語の構造も非常に「分かりやすい」二項対立にも、重層的な意味合いを見出すことが出来るのではないか。

 

 

タイタニック 徹底解剖!(前編) - アメリカンにアメリカ映画を観る!