Short Term 12(ネタバレなし・前編) - アメリカンにアメリカ映画を観る!
↑の続きです。
ネタバレありです。
この映画は、あるエピソードから始まる。
Short term 12で働くメイソン。その施設から逃げ出した子を追いかけて、同じバスにまで乗り込んでいったのはいいが、タコスを事前に食べて腹を壊していたことがたたって・・・、とメイソンはテンポ良く語る。彼女グレイスを含む同業者は笑いをこらえられない。ただ、そこには悲しい後日談があった。そこには触れられたくなかったのだ。
そして、この映画は、また別のエピソードで締めくくられる。
親からの虐待を受け、常に帽子をかぶり、痣のある頭を見られたくないと思っていたマーカス。その彼が一目ぼれしたが施設を出て行った子がいたのだが、実は、彼と、その子はカップルになっていたという微笑ましいエピソード。単なる笑い話かと思いきや、後日談は極めて哀しい、冒頭のエピソードとは対照的だ。
この映画は、先述したように、心に傷を負った者たちが、互いに心を癒し会うというストーリーだ。実は、施設で働くグレイスの過去こそ、最も悲惨なものであったことで分かるように、年齢は関係ないのだ。Short Term12 の中では、誰もが、簡単に口には出せない傷を負っている。マーカスは、ラップで、そしてグレイスの合わせ鏡のような存在である、ジェイデンは創作のおとぎ話でしか自分の傷を表現できなかった。しかし、最終的には、幽閉し続けてきたものを、他人にも明かすことができるようになる。
それゆえの、エンディングである。冒頭と構造は同じだが、サミーは何故かアメリカの国旗を身にまとっている。あれは、希望の象徴であろうし、実際サミーは人形遊びから卒業したようなニュアンスも匂わせる。しかも、サミーがスローモーションで走るところをよくみると、彼は単に逃げ出そうとしていたのではなく、後を追うグレイスやメイソンと戯れているだけのようにも取れる。彼は彼なりの手段で、何かを吹っ切ったということだろう。
ちなみに、主人公の名前であるGraceには、一般に、恵み、あるいは(神の)恩寵といった聖なるイメージがある。彼女は、恵みを与える者であると同時に、自らにも恵みを授けたのだろう。