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アメリカンに映画を観る!--- 洋画見聞録

主にアメリカ映画・文化について書きます。たまに関係なさそうな話題も。

今回はおおむねシリアスなジュスティーン・トリエ『落下の解剖学』

ジュスティーン・トリエ監督の『落下の解剖学』はカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した作品で、トリエ監督の長編作品としては4作目に当たる。物語としては、フレンチアルプスの山荘に息子と暮らす主人公サンドラの夫が謎の落下死を遂げる。やがて事故死の可…

大事なところでかかるのはニーナ・シモン『Perfect Days』『ボーはおそれている』

遅ればせながらヴィム・ヴェンダーズ監督の『Perfect Days』を見た。その前は、アリ・アスター監督の『ボーはおそれている』を見ていたので、期せずしてニーナ・シモンの曲が肝心なところに二本連続でかかっていたので少し驚いた。 (以下、両作のネタバレあ…

まさかの"Somebody That I Used to Know" 『ザ・ガーディアン/守護者』 

思いがけない形で、とても懐かしい曲を映画館で聞くことになった。 "Somebody That I Used to Know"である。2011年の曲なので、10年以上も前のヒットだということで驚いた。『ザ・ガーディアン/守護者』という韓国映画でこの曲がいわばライトモチーフとして…

今年のフランケンシュタイン系映画はまだあるはず『哀れなるものたち』『Lisa Frankenstein』

ヨルゴス・ランティモス監督、エマ・ストーン主演の『哀れなるものたち』(Poor Things)を見た。この監督主演タッグは短編も入れると三度目の共演らしい。自分もいいコンビだとは思う。『籠の中の乙女』『ロブスター』『聖なる鹿殺し』は後追いで、『女王陛下…

2023年の映画ベスト10

2023年のベスト10は、 ①バービー ②パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女 ③別れる決心 ④フェイブルマンズ ⑤ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい ⑥ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー ⑦SHE SAID/シー・セッド その名を暴け ⑧Blue Giant ⑨スパイダーマン:アク…

2023年10月の3点

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(マーティン・スコセッシ監督、アメリカ) 20世紀の白人による先住民の簒奪に迫る題材、200分を超える長尺、Apple配信映画としては珍しい劇場公開といった要素が揃う映画もなかなかないだろうし、本編自体に引き込ま…

『フェイブルマンズ』気付くのはいつも後:主人公が撮った劇映画と記録映画(映画についての映画③)

スティーブン・スピルバーグによる『フェイブルマンズ』は、スピルバーグ少年が映画に目覚め、監督を目指すようになるまでの実体験を基に作られた映画である。スピルバーグの姓が本作ではフェイブルマン(Fabelman)、つまりお話、物語(fable)を想起させるもの…

ザ・クリエイター/創造者 ベトナム戦争ものをSFで

『ザ・クリエイター/創造者』は近未来を舞台とし、AIを敵視する西側諸国(主にアメリカ)と、AIとの共存を標榜するニューアジアとの戦争が続く中、元特殊部隊のジョシュアが本来は暗殺対象であるAI少女を守るべく奮闘するSFアクションである。 本作がベトナ…

皮肉たっぷりに描かれるヒットマンの生活『ザ・キラー』

デイビッド・フィンチャー監督の『ザ・キラー』をネットフリックス配信前に劇場で見た。マイケル・ファスベンダー演じる殺し屋がパリでの仕事に失敗したために自分の隠れ家にいたパートナーが襲われてしまう。そのカタをつけるべく彼は世界中を飛び回って問…

在宅鑑賞日記⑦ ベイビーわるきゅーれ再訪

ykondo57.hatenablog.com 某日 『コンセクエンス』のことを思い出しつつ、ネットフリックスで『ベイビーわるきゅーれ』が見られるようになったので、全編を再見した。ジョン・ウィックシリーズでは全く描かれない、ゼニ(のなさ)をちゃんと描いていることを…

2023年9月の3点 (『JW4』『グランツーリスモ』『ミュータント・タートルズ』)

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』チャド・スタエルスキ監督、アメリカ とにかくナイスガイのキアヌ・リーブス演じる、(やむを得ず)とにかく周りに迷惑ばかりかけてしまうジョン・ウィック。その落とし前を彼なりの形でどうつけるのか、と考えるとある…

死神ウィックの最終章『ジョン・ウィック:コンセクエンス』

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』を見た。前作は「パラベラム」、本作は「コンセクエンス」。シリーズ4作目となるこの映画の原題は"John Wick: Chapter 4"なので、"John Wick" "John Wick: Chapter 2" "John Wick: Parabellum" "John Wick: Chapter 4"…

『グランツーリスモ』と『アライブフーン』:リアルとバーチャルな場で走り続けること

『グランツーリスモ』を観た。ちなみに、私はプレイステーションのゲーム「グランツーリスモ」をプレイしたことがない。この映画は、主人公がレーシング・ゲーム(厳密には"シミュレーター"らしいが)の敏腕プレイヤーから現実のレーサーになるという嘘みた…

2023年8月の3点(『バービー』『あしたの少女』『ソウルに帰る』)

『バービー』グレタ・ガーウィグ監督、アメリカ 真っ直ぐに語られるフェミニズム的メッセージ、往年の名作へのオマージュやパロディ、そして何よりも観客を笑わせてくれる要素を持つ娯楽大作にして、長編は3本目のグレタ・ガーウィグが世に問うた現時点での…

機械仕掛けの「運命」:アルゴリズム対スパイダーマン(たち)

ykondo57.hatenablog.com (↑の続き)その二作品とは、スーパーヒーロー映画『ザ・フラッシュ』と『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』のことである。前者ではフラッシュが新たに発見した自分の能力を使って過去に戻って母親の死を食い止めた…

"How to Blow Up a Pipeline" エコ・スリラーの新境地

How to Blow Up a Pipelineという映画を先日見た。日本では劇場未公開で、配信予定も未定の映画なのだが、大変面白かった。本作では、気候変動による未曾有の危機にも関わらず石油業界は利益を優先して何もしない中、テキサス州にある石油輸送パイプラインを…

在宅鑑賞日記 ⑥ 配信スルー映画を見て考えるジャンル論

某日 いつの間にか配信スルーになっていた『BODIES BODIES BODIES/ボディーズ・ボディーズ・ボディーズ』(2023年)を見た。嵐の夜に20代の若者たちが"Bodies Bodies Bodies"(bodyは死体の意)というゲームを行っていたら、本当に死人が出てしまう、という映…

2023年7月の3点(『裸足になって』『M:I デッドレコニング Part One』「一流シェフのファミリーレストラン(The Bear)」S2)

『裸足になって』(ムニア・メドゥール監督・フランス、アルジェリア) 90分強で本編がスパッと終わったときの満足感が忘れられなかった。 『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(クリストファー・マッカリー監督、アメリカ) 『キー…

2023年6月の3本『アクロス・ザ・スパイダーバース』『ザ・フラッシュ』『ウーマン・トーキング』

『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』(ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン監督、アメリカ) www.youtube.com 冒頭のグウェンパートだけの映画も見てみたい。 『ザ・フラッシュ』(アンディ・ムスキエ…

画面の停滞から回避する会話劇『ウーマン・トーキング』

『ウーマン・トーキング』は、サラ・ポーリーの4本目の長編映画である(内ドキュメンタリーが一本)。俳優としてそのキャリアを始めたポーリー監督は、寡作だと言え、前作の劇映画『テイク・ディス・ワルツ』(傑作!)からすれば実に10年近く間隔が空いた。…

『バービー』予告編について 郊外映画なのか?

www.youtube.com 当初、グレタ・ガーウィグがバービー人形の映画を撮ると聞いて、驚いていたのだが、今回『アクロス・ザ・スパイダーバース』や『ザ・フラッシュ』(2本については後日記事を書きます)の鑑賞前に見た『バービー』の予告編を見る限り、これは…

『明日に処刑を...』スコセッシの隠れた佳作

『明日に処刑を...』はマーティン・スコセッシの長編第二作であり、ロジャー・コーマン製作の映画というだけあって、他のスコセッシ映画とは随分毛色の異なる映画のように思える。大恐慌のアメリカ南部州カンザスを舞台とする犯罪映画だが、今回の主人公はバ…

『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』やさしさと加害性

「おもろい以外いらんねん」「きみだからさびしい」など繊細な感性で紡がれた作品で知られる大前粟生の小説「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」を映画化。京都にある大学の「ぬいぐるみサークル」。「男らしさ」や「女らしさ」というノリが苦手な大学生の…

2023年5月の3本 『それでも私は生きていく』他2本

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:Volume 3』 ykondo57.hatenablog.com 『クリード 過去の逆襲』 ykondo57.hatenablog.com 『それでも私は生きていく』 劇場で見た初めてのミア・ハンセン=ラブ監督作になった。前作の『ベルイマン島にて』では、自身…

『ドアをノックするのは誰?』スコセッシの「アニー・ホール」、あるいはタランティーノの新作について

イタリア系アメリカ人のJ.Rと、彼と出会い交際を始める女性(役名はThe Girl)との関係を描いた90分ほどの人間ドラマで、マーティン・スコセッシの長編デビュー作だ。 この映画は、後に彼が何度も形を変えて描くことになる、宗教と世俗の世界の間で葛藤する主…

学校では真似できないボクシングという対話『クリード 過去の逆襲』

『クリード 過去の逆襲』は「ロッキー」シリーズのスピンオフとして始動した「クリード」シリーズの3作目であり、主役アドニス・クリードを演じるマイケル・B・ジョーダンが監督として初めて撮った長編映画でもある。本作ではもうロッキー役としてスタローン…

ジェームズ・ガンの「さよならマーベル」『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:Volume 3』

クリス・プラットに抵抗感があったり*1、ジェームズ・ガン作品はマーベルよりもDCの方が好きな立場として、見に行く気が当初あまり起きなかったのだが、大変満足できる完結編だった。 銀河のはぐれ者たちのファイナル・マッチを描く三部作の最終作で、主人公…

2023年4月の3点 『トリとロキタ』『AIR/エア』『サーチ2/search』

『トリとロキタ』 90分未満でここまでの話を無駄なく語れるということに感銘を受けるとともに、おそらく近年のダルデンヌ兄弟監督作と比べても、主人公たちに厳しい顛末を用意したという点で強烈な印象を受けた。 『AIR/エア』 見るまではあまり期待していな…

在宅鑑賞日記⑤ 『エブリシング・エブリウェア~』とミシェル・ヨーのカンフー映画 (後)

某日 カンフー映画を集中的に見るつもりだったが、一か月で見たのは『ワンダー・ガールズ 東方三侠』(1993年)『ワンダー・ガールズ 東方三侠2』(同じく1993年!)『皇家戦士』(1988年)の三本だった。どうやっても倒せないターミネーターのような敵が出てきた…

search/#サーチ2 前作から進化したPCスリラー

(核心的なところに本当に触れているので未見の方はご注意ください) www.youtube.com 父親をすでに亡くしている娘が、