[PR]カウンター

アメリカンに映画を観る!--- 洋画見聞録

主にアメリカ映画・文化について書きます。たまに関係なさそうな話題も。

洋画

今回はおおむねシリアスなジュスティーン・トリエ『落下の解剖学』

ジュスティーン・トリエ監督の『落下の解剖学』はカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した作品で、トリエ監督の長編作品としては4作目に当たる。物語としては、フレンチアルプスの山荘に息子と暮らす主人公サンドラの夫が謎の落下死を遂げる。やがて事故死の可…

今年のフランケンシュタイン系映画はまだあるはず『哀れなるものたち』『Lisa Frankenstein』

ヨルゴス・ランティモス監督、エマ・ストーン主演の『哀れなるものたち』(Poor Things)を見た。この監督主演タッグは短編も入れると三度目の共演らしい。自分もいいコンビだとは思う。『籠の中の乙女』『ロブスター』『聖なる鹿殺し』は後追いで、『女王陛下…

ザ・クリエイター/創造者 ベトナム戦争ものをSFで

『ザ・クリエイター/創造者』は近未来を舞台とし、AIを敵視する西側諸国(主にアメリカ)と、AIとの共存を標榜するニューアジアとの戦争が続く中、元特殊部隊のジョシュアが本来は暗殺対象であるAI少女を守るべく奮闘するSFアクションである。 本作がベトナ…

皮肉たっぷりに描かれるヒットマンの生活『ザ・キラー』

デイビッド・フィンチャー監督の『ザ・キラー』をネットフリックス配信前に劇場で見た。マイケル・ファスベンダー演じる殺し屋がパリでの仕事に失敗したために自分の隠れ家にいたパートナーが襲われてしまう。そのカタをつけるべく彼は世界中を飛び回って問…

機械仕掛けの「運命」:アルゴリズム対スパイダーマン(たち)

ykondo57.hatenablog.com (↑の続き)その二作品とは、スーパーヒーロー映画『ザ・フラッシュ』と『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』のことである。前者ではフラッシュが新たに発見した自分の能力を使って過去に戻って母親の死を食い止めた…

"How to Blow Up a Pipeline" エコ・スリラーの新境地

How to Blow Up a Pipelineという映画を先日見た。日本では劇場未公開で、配信予定も未定の映画なのだが、大変面白かった。本作では、気候変動による未曾有の危機にも関わらず石油業界は利益を優先して何もしない中、テキサス州にある石油輸送パイプラインを…

2023年6月の3本『アクロス・ザ・スパイダーバース』『ザ・フラッシュ』『ウーマン・トーキング』

『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』(ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン監督、アメリカ) www.youtube.com 冒頭のグウェンパートだけの映画も見てみたい。 『ザ・フラッシュ』(アンディ・ムスキエ…

『ドアをノックするのは誰?』スコセッシの「アニー・ホール」、あるいはタランティーノの新作について

イタリア系アメリカ人のJ.Rと、彼と出会い交際を始める女性(役名はThe Girl)との関係を描いた90分ほどの人間ドラマで、マーティン・スコセッシの長編デビュー作だ。 この映画は、後に彼が何度も形を変えて描くことになる、宗教と世俗の世界の間で葛藤する主…

学校では真似できないボクシングという対話『クリード 過去の逆襲』

『クリード 過去の逆襲』は「ロッキー」シリーズのスピンオフとして始動した「クリード」シリーズの3作目であり、主役アドニス・クリードを演じるマイケル・B・ジョーダンが監督として初めて撮った長編映画でもある。本作ではもうロッキー役としてスタローン…

2023年3月の2点:『ライ・レーン』『キル・ボクスン』

3月は注目の劇場公開作が多すぎていつもの3本に絞れなかったので、あえて配信のみの新作2本にしました。 『ライ・レーン』(2023年・英国、レイン・アレン・ミラー監督) www.youtube.com 新作のラブコメ(rom-com)映画が配信公開されるのが割と増えてきたか…

『ブルース・ブラザーズ』をカーアクション映画として見返す

ykondo57.hatenablog.com 以前(↑上記参照)の記事に書いたように、アントマンの新作を見て、ハイスト映画を無性に見たくなり、その後数日くらいは未見だった映画をいくつか見て「口直し」をしたものだが、先日BSプレミアムにて放映していた『ブルース・ブラ…

在宅鑑賞日記③ アントマン3とお口直し映画

某日 『アントマン&ワスプ:クアントマニア』を昨日見た。評判の悪さほど悪くはなかったものの、やはりアントマンの面白いところは盗みの場面やその後のカーチェイスだと思うので、コミカルなケイパー/ハイスト映画が見たくなり、『いつもの見知らぬ男たち』…

在宅鑑賞日記②

X日 マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルより『ブートレッガー 密売人』(2021年)。当オンラインフェスティバルでようやく「当たり」の映画を見ることができた。難しい問題を扱っていながら、過剰なバイオレンスやサスペンスに傾倒することなく、異様な…

在宅鑑賞日記①

X日 昨年見損ねた新作を見ようと思い、まずデイビッド・O・ラッセルの久々の長編『アムステルダム』。あまり評判が良くなかった理由は分かるが、楽しめなくはなかった。豪華キャストだとは聞いていたので、次は誰が出てくるんだろう、とワクワクしながら前半…

【11月はノワール月間 #noirvember】② 『クリムゾン・キモノ』(1959)

tinyletter.com アメリカの批評家Angelica Jade Bastienのニュースレターにて紹介されていた異色のノワールということで見てみたが、とても面白かった。 Noir is an exceedingly fascinating, rich genre to use toward interrogating race. This holds true…

【11月はノワール月間 #noirvember】①『ローラ殺人事件』(1944)  

11月は #noirvember (noir+november) ということで先日オットー・プレミンジャー監督の『ローラ殺人事件』再見。noirvemberの提唱者でもあるMarya E. Gatesが米国ラジオ局のNPRのインタビューにて指摘するように、紛れもなくノワールでありながら、ファム・…

『人質』(2021) このファン・ジョンミン「本人」の誘拐脱出劇はメタ的スリラー

www.imdb.com ファン・ジョンミンが本人役として誘拐されて、知恵と腕っぷしだけで脱出しなければならないーーーという、奇抜な設定には当初半信半疑だったものの、やはり俳優ファン・ジョンミンを巡る評価が結構本筋と関わっていたのは良かった。 最後は2年…

『ブラック・ウィドウ』における楽曲「アメリカン・パイ」の意味

『ブラック・ウィドウ』を見ていて、驚いたと同時に強い感銘を受けたのは以下の曲が回想シーンで使われていたからだ。 www.youtube.com 『アメリカン・パイ』は1971年にアメリカのシンガー・ソングライター、ドン・マクリーンによるヒット曲である。フルバー…

未公開映画3本ウォッチ (Queen & Slim, Judas and the Black Messiah, The United States vs. Billie Holiday)

アメリカの2月はBlack History Month(黒人歴史月間)とされており、各種ストリーミングのプラットフォームでも、本数はあまり多くないなりに、関連映画を紹介していることがある。そこで日本では未公開作品を3本挙げてみる。更新は随時します。 Queen & Slim …

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』 はすでに「成功」だと言える理由

日本では、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』(以下"Birds of Prey")の公開を3月まで待たないといけない。しかし、鑑賞前からすでにこの作品は「成功」を収めていると言える。 その理由は3つ。一つは、予告編が素晴らしいから。『スーサイド…

2019年回顧 まえがきに代えて

去年と似たような形式で2019年に観た新作映画について、何本かの記事に分けて書いていきたいと思います。新作は必ずしも劇場で見ていない配信作やDVDスルーのものも含まれています。ずっと待っていたのに気づいたら未公開作としてソフト化されていたり、アマ…

『エンドゲーム』短評紹介 (ネタバレなし)

以下は『エンドゲーム』短評の拙訳だ。コンパクトに注目点がまとまっていたので紹介する。 https://www.vox.com/culture/2019/4/26/18518556/avengers-endgame-review 待望の「アレ」がやってきた。MCUの「インフィニティ・サーガ」の"非"公式な大フィナーレ…

ある一つの終わり エンドゲーム鑑賞後の所感 (ネタバレなし)

一映画ファンとして常に興味を持つのは、一連の映画作品からなるシリーズないしジャンルの「終わり」だ。 1969年公開の西部劇『ワイルドバンチ』は、時代遅れのアウトローたちの末路を衝撃的なラストのアクションシーンでもって描き切った作品だった。本作は…

アカデミー作品賞受賞作『グリーン・ブック』前情報(そんなに「いいハナシ」なのか?)

海外のポッドキャストを普段からよく聞いているのだが、中でも毎週更新が待ち遠しい番組が"Still Processing"で、性的マイノリティ&黒人という二重の意味で少数派の男女二人(Jenna Worsham & Wesley Morris)が、アメリカのポップカルチャーが今日の社会にど…

備忘録:ゴダールの新作はどうなっているのか

ジャン・リュック・ゴダールの新作『イメージの本』が日本で一般上映される日もそう遠くはないはず、なのだがいまいちどういう映画なのか分かっていなかった。そこで、たまたま自分がぶつかった情報を軽くまとめてみた。 まず始点は蓮實重彦。以下のツイート…

ディザスター・アーティスト 映画の中と外

The Disaster Artist Teaser Trailer #1 | Movieclips Trailer 映画の中 アメリカコメディ界の巨匠、ジャド・アパトーが世に問うた『40歳の童貞男』を「ブロマンス映画」(男友達の友情映画)元年とするならば、はや15年近くが経過したことになる。今なお同…

2018年の映画総括 下半期 (ブリグズビー、ボルグ/マッケンロー、サーチ、1987など)

下半期の映画について。 前回の投稿に続き、まず2018年の映画ではない話からになってしまう。去年公開の『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』は、「賛否両論」という表現が付きまとう映画だった、と個人的には記憶している。その「否」の意見が、建設的な批…

2018年の映画総括 上半期 (ブラックパンサー、シェイプ・オブ・ウォーター、ペンタゴン、アイ、トーニャなど)

今年も残りわずか。とりあえず今年の前半を振り返ってみたい。 と言いつつも、厳密には2017年12月に封切となった松岡茉優初出演作『勝手にふるえてろ』についてまず言及したい。(この映画、年は跨いでいるので一応2018年の映画ということで話を進める) 本編…

『デンジャラス・プリズンー牢獄の処刑人ー』

前から海外サイトで紹介されてたのをチラっと見たことがあって印象に残っていたけど、まさか日本で観られるとは思ってなかった。この点に関してはTBSラジオアフター6ジャンクションで取り上げてくれていたことに感謝。 https://www.amazon.co.jp/dp/B07DGMK1…

Searchingの先駆け的Modern Family傑作回

全てがPC画面内で展開するスリラー映画Searchingが話題のようだが(もちろん、というか順当に未見)、このニュースを知ったとき、どこか既視感があった。 それもそのはず、Modern FamilyというアメリカABCテレビのシットコムが一回全く同じようなことをやっ…