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アメリカンに映画を観る!--- 洋画見聞録

主にアメリカ映画・文化について書きます。たまに関係なさそうな話題も。

2018年9月の傑作Netflixドラマ 1)アトランタ

最近見終わったNetflixのドラマがどれも面白かった。とりあえず『アトランタ』について紹介する。
 
俳優、脚本家、ミュージシャンなど多方面で活躍するドナルド・グローバーが出演するコメディドラマの『アトランタ』はシーズン1がNetflixで見られるようになっていた。まだブレイクしていないラッパー、ペーパーボーイと謎の友人とグローバー演じる大学中退の無職のアーンが、暴力と隣り合わせでいながら日々を何となく生きている様子がどこか面白い。おすすめの回は黒人のジャスティン・ビーバー(!)が登場する第五話と、架空のトークショーが展開する(CMも創作)第7話、そして傑作スリラー『ゲット・アウト』のドラマ版ともいえる第9話。第二シーズンも最近ケーブルテレビチャンネルのFOXにて一挙放送していたので、また観る。
 
 

Searchingの先駆け的Modern Family傑作回

 全てがPC画面内で展開するスリラー映画Searchingが話題のようだが(もちろん、というか順当に未見)、このニュースを知ったとき、どこか既視感があった。
それもそのはず、Modern FamilyというアメリABCテレビシットコムが一回全く同じようなことをやっていたからだ。娘がどこに行ってしまったか心配でならない母親が、夫や他の子供たちからの連絡にも適宜応対しつつ、SNSやメール、グーグル検索などを駆使して何とか娘の居場所をつきとめようとする回。探せば探すほどヤバそうな真相にたどり着きそうになる母親。もしかして今の彼氏と駆け落ちしてラスベガスで結婚式を挙げるのでは?とか思ってパニック状態に陥る母。あくまでもコメディドラマなので気軽に見られるが、目まぐるしくPC画面上に映るものが変化する様子は正直観ていてめちゃくちゃ面白かった。未見の方は是非。
 

芝山幹郎の映画評論・コラム連載媒体まとめ

著名な映画評論家である、芝山幹郎が今現在どこでどのような連載をもっているか、少し調べてみました。完全に網羅出来ているかどうか自信はありませんが、少なくとも結構な数は見つかりました。

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週刊文春 星取りチャート (毎週 http://bunshun.jp/category/chinema-chart

暮らしの手帖「シネマ・シバヤマ」(隔月) 

GQ Japan コラム (不定期)

週刊エコノミスト「アートな時間 映画」(月1)

日本経済新聞 日曜版「名作コンシェルジュ」(月1)

キネマ旬報不定期) 

 

NUMBERコラム(スポーツ)

 

BSジャパン シネマ・アディクト(毎週日曜?)

 

文春とJapan GQ以外の場合、無料のネット記事はなく、紙媒体で読むのが一番早いようです。地元の図書館で「シネマ・シバヤマ」、ほぼ毎回読んでいますが、的確な表現と造詣の深さでもってぐいぐいと読ませる感じがとても心地よい評論です。

芝山氏の映画話を実際に聞いてみたいという方には、ぜひTBSラジオのアフター6ジャンクションの特集を聞いてみてください。めちゃくちゃ面白いです。

www.tbsradio.jp

『シング・ストリート』と『バック・トゥ・ザ・フューチャー』

 遅ればせながら『シング・ストリート』(アイルランド、2016年)を観ました。音楽と人間関係における喜びにあふれた映画で、観ていて楽しかったです。

 このブログはアメリカ映画を主に扱うブログなので、一応アメリカ映画と絡ませて話を広げたいと思うのですが、この映画は「向こう岸」に見えるイギリスそして遥か彼方にあるアメリカのポップカルチャーへの憧れが強い作品で、デュラン・デュランザ・キュアーホール&オーツ(挿入曲"Drive It Like You Stole It"は明らかに彼らの"Maneater"を元にして作られている)などの楽曲が登場しています。それを見ているだけでも面白かったのですが、個人的に結構気になったのが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(以下BTTF)への言及があったことです。

 主人公が結成したバンドのPVを作るにあたって、彼らはBTTFに出てくる50年代の高校のパーティー(プロム)を参考にするのです。要するに、当時(1985年)のアメリカにて描かれた1950年代の「古き良きアメリカ」の1ページ(それが単に幻想にしかすぎなかったのでは?という歴史的指摘については例えばディヴィット・ハルバースタムの『ザ・フィフティーズ』が参考になります)が海を越えて同時代のダブリンの高校生に届いて・・・という流れを約30年後の2016年にまた描く、という形で何重にもアメリカのイメージが再生産されていくのです。こうやってリアルタイムで生きてこなかった人間が、ある時代に憧れていくんだろうな、と思う訳ですが。

 ちなみに、この映画は1985年のダブリンが舞台ですが、実際にBTTFが上映されたのは1985年の12月だったそうで、登場人物が既にその映画を観ていたという設定は本当はおかしいそうです。ノスタルジーの中にアナクロニズム(時代錯誤)が潜んでいた、という点は興味深いと言えるかもしれません。

www.imdb.com

『カメラを止めるな!』を語ることとは (ネタバレなし)

 よくゾンビ映画は人種、経済格差など、社会問題を映し出す鏡として語られることがある。その論理でいくとゾンビ映画を語ることは、現在の社会を語ることになる。

 同様に、『カメラを止めるな!』を語ることは、映画そのもののあり方を語ることになる。映画には、喜びも悲しみも、恐怖も笑いも詰まっている。そんな映画を観ることとは一体何か?映画を作ることとは一体何か?そして映画について後々語ることとは一体何か?

 本作の具体的内容を語らずに本作について語るとなると、意味深な哲学的問いを投げかけることくらいしか残されていないように思えてしまう。しかしながら、こういった問いこそが、この映画に投げかけるべき問いであることだと思えてならないのだ。

 という訳で、未見の方は、ぜひ。

ぴあアプリの黒沢清インタビューがすごい

 表題通りの内容ですが、最近ぴあのアプリをダウンロードして使ってみています。

 このアプリの一番の目玉は黒澤清の独占インタビュー。それも自分の映画製作背景について語るというものではなく、本人に影響を与えた10人の監督についての持論を展開するというもの。

 8月12日の時点ではサム・ペキンパーフェデリコ・フェリーニ、テオ・アンゲロブロス、そして小津安二郎の4人についてのインタビューが公開されています。

 正直なところ、アンゲロブロスについてはほとんど知らなかったのですが、どの回においても黒澤監督の自身の体験と独自的な批評が大変面白く、教養的な意味で勉強になると同時に新しい見方を提示してくれます。

 特に印象に残っているのは、『セーラー服と機関銃』(第三回)の助監督をやっていた際の、長回し撮影のエピソード(新宿の道路を行き交う車を自分一人で止めておかなくてはいけなかったとか、主人公の乗るバイクはすごく遅くてひやひやしたとか)と、小津安二郎ミニマリズムとか日本的とか言われるけど、全然そうじゃない、むしろ相当変わっている、という指摘です。

 このインタビューを読むためだけにもアプリをダウンロードする価値はあると思います。

(追記:9/3/2018)

 全てのインタビューが今では読めるようになっています。意外なチョイスも見受けられますが、最後はやはりスピルバーグ。特別扱いなので、前後編あります。インタビュー内でも触れられていますが、スピルバーグがすごいのは、1年に映画を2本撮ることが何度もあること、そしてその2本とも傑作であることだと思います。最近だと『レディー・プレイヤー1』と『ペンタゴン・ペーパーズ』が今年公開でした。個人的には地味な内容であるはずの後者の方に力がより入っていたような気がしました。

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本当は怖い『ナーズの復讐』~映画における「オタク」と「ミソジニー」

 しばらく前に作った本ブログ内のカテゴリーで「愛すべきおバカ映画」というものを作っていたが、今の自分にはこの映画をそのカテゴリーには到底入れられそうにない。

 80年代に量産されたアメリカの学園ものコメディ映画の中に、『ナーズの復讐』という作品がある。前からタイトルだけは聞いたことがあって、気になっていたので、ケーブルテレビのザ・シネマで録画視聴した(今日本では配信でしか観られないそうだ)。

 

 この映画の背景説明に関しては、ライターの長谷川町蔵のコラムに詳しいが(見事な展開を見せるコラムになっているのでぜひ一読を勧めたい)

www.thecinema.jp

 字幕で終始そのまま「ナーズ」と形容されている男子たちは、日本語の「オタク」が近い表現だと思うが、とにかく彼らの社会的地位は底辺だ。コンピューターも普及していない30年前の話なので、彼らは、今の日本における「オタク」とはまた違う次元の軽蔑的な扱いを高校時代まで受けてきた。そんな彼らが大学に入って、女性にもモテる(かもしれない)生活を送ろうと胸を躍らせていた矢先、体育会系の連中に(ジョックスと呼ばれる)に蹂躙される日々が始まる。当然ながら女子にも相手にされない。

 最終的には「ナーズ(nerds)にも人権を!」とクイーンの名曲「伝説のチャンピオン」をバックに声高に唱えるナードたちなのだが、単刀直入に言えば彼らが物語の前半で行った性犯罪は完全に無視されたままだ(上の長谷川コラムにあるところの「今では犯罪認定のエロいギャグの数々」)。

 これはどういうことなのか、少し未見の人に説明したい。

 タイトル通り、オタクたちは復讐を果たすのだが、まず狙ったのは自分たちをバカにしてきた友愛会(女性の社交クラブ、ソロリティ(sorority)と呼ばれるもの)の女子たちだった。オタクたちは何をするんだろうと彼女たちが思っているところに、シャワーのところに忍び込んでいた主人公が急に飛び出してきて、裸の彼女たちを驚かす間に、別のメンバーが彼女たちの住む部屋にのぞき用の隠しカメラを設置してしまう。しかも、その映像を彼らは自分たちの宿舎のテレビで一晩中見る。

 しかも、最終的に主人公ルイスは、ジョックの彼女、そしてソロリティの一員であるチアリーダーのジュディと恋人になる訳だが、その理由がルイスが彼氏のフリをして暗闇の中で関係を持ったら、あまりにも上手かったので「寝取ること」に成功したという支離滅裂なものだ。  

  こういったモテないオタクの男たちと、ミソジニー女性嫌悪;好きの裏返しの結果として女性をリスペクトしないことも含む)は残念ながら相性がいい、ということは例えば全米で大人気のコメディドラマ"The Big Bang Theory"(ビッグバンセオリー ギークなボクらの恋愛法則)を見ても分かることだ。

 (ちなみに参考にしたのは

The Adorkable Misogyny of The Big Bang Theory - YouTubeという鋭い分析を行っているこの動画。大意だけまとめると、主人公のオタクたちはたしかにマッチョな男性ではないが、しかしそれゆえに彼らの持っている女性に対する価値観の危なさが見えづらくなっていると論者は述べている)

 この映画のタイトルは『ナーズの”復讐”』となっており、実際に復讐は果たされたのだが、その内容を考えてみれば末恐ろしい話なのはご理解頂けただろうか。